令和4年の全国保健医療統計によると、埼⽟県は⼈⼝10万⼈に対する医師の⼈数(以下、医師数)が全国47都道府県の中で圧倒的に少なく180.2人で47位。46位の茨城県は202人と格差がある。埼⽟県は全国で5番⽬に県⺠の平均年齢が若い都道府県(平成20年現在)だが、⼀⽅で⾼齢化が急速に進んでいることも知られている。急速な⾼齢化に対し、医療や介護、福祉サービスの整備は相対的に遅れており、現在においても地域のニーズに⼗分に対応できているとは必ずしもいえない。埼⽟県は医療法により10の⼆次医療圏に区分されている。当院が位置する利根⼆次医療圏は医師数が県内で三番⽬に少なく、幸手・杉戸・宮代の15万人に対して常勤の糖尿病専⾨医は1名のみである。
平成20年以降、当科では「地域に根ざした糖尿病医療の実現」を主要な課題と位置づけた。すなわち、保健所や診療所をはじめとする地域の医療資源との機能的な連携ネットワークを構築することにより、地域が協⼒して医師不⾜や急速に進⾏する⾼齢化に対応していく。さらに、この状況を変⾰の好機とみなし、これまで培ってきたチームの専⾨的知識や技術、経験を地域医療の中で⽣かしていくための新しい診療システムを整備している。
次に令和7年度の当科の具体的な活動を、下記の(1)〜(6)にまとめる。
(1) 診療実績 (2) 地域連携ネットワーク構築と糖尿病‧地域連携プログラムに関する活動 (3) スタッフ教育 (4) 研究‧学術活動 (5) 講演活動‧社会貢献 (6) 代謝内分泌科‧糖尿病療養医療チームスタッフ
糖尿病専⾨外来‧⼊院
糖尿病は、治療の約98%が患者自身のセルフケアによって行われている。
なかでも食事療法は糖尿病治療の基本であり、管理栄養士による栄養指導の重要性は極めて高いものである。
糖尿病治療において、食事療法は薬物療法・運動療法と並ぶ重要な柱である。血糖値の変動は、日々の食事内容や食べ方の工夫によって大きく左右されるため、患者一人ひとりの状態に応じた栄養指導を行うことが不可欠である。
栄養指導では、単に摂取を控えるべき食品を示すのではなく、患者の生活習慣、嗜好、社会的背景を踏まえ、無理なく継続できる食事方法を提案することを重視している。食事療法は長期的な取り組みであり、継続可能な方法を見出すことが治療効果の向上につながるためである。
適切な食事管理は、血糖コントロールの改善のみならず、糖尿病合併症の予防にも大きく寄与する。日々の積み重ねが将来の健康状態を左右することから、継続的な栄養指導を通じて患者の自己管理能力を高めることが重要である。
当院では、5名の管理栄養士が科学的根拠に基づいた栄養指導を実施し、患者が安心して治療に取り組めるよう支援している。2024年度には1850件、2025年度には2200件の外来栄養指導を行い、地域の患者一人ひとりに合わせたきめ細やかな栄養支援を提供していきたい。
深刻な医師不⾜の中で地域医療を守るためには、医療施設が役割分担と連携をすることにより、あたかも⼀つの病院のように機能することが肝要である。その1つとして教育入院があり、1~2週間で血糖コントロール、患者教育、インスリン導入、内服の整頓や合併症の評価を行っている。また二人主治医制は外来機能の変更によりしたが、合併症検査の為の紹介受診は継続して受診可能である。
教育入院プログラムは10のセッションから構成され、その内容は、1)動機付け、2)現実的で実⾏可能な⽬標設定、3)継続のための⽀援の求め⽅(⼼理社会的諸問題とソーシャルサポート)の3つに⼤別される。こうした様々な側⾯からのアプローチにより、患者のQOLを損ねることなく、⾃覚を持ちながら主体的に治療に取り込めるように⽀援し、最終的にセルフケアに関して患者を⾃⽴させていく。⼊院スケジュールは糖尿病療養指導⼠が実施主体となり進⾏される。
従って、当プログラムは、いわばコメディカル中⼼のチーム医療による新しい⼊院形式と⾔える。故に、この連携プログラムを実現できたのは、院内各部署の理解と⽀援の賜物である。
当プログラムは地域連携クリニカルパスにより、診療所から病院、さらに病院から診療所へと医療の連続性が確保されている。
教育⼊院だけでなく、外来栄養指導やフットケア外来、外来インスリン導⼊なども、地域ネットワークを介して他施設より簡便に利⽤できるようにした。実地医家の利便性を⾼めるために、我々は繰り返し試⾏錯誤を⾏った。紹介状を簡素化し、紹介の際の負担を軽減するように努めた。具体的な紹介基準を明記することで糖尿病を専⾨としない実地医家でも利⽤しやすいよう⼯夫している。退院後は原則として必ず紹介元へ逆紹介している。「顔の⾒える連携」を実現する為に、研究会や交流会を定期的に開催した。
また、医師や地域ネットワーク職員などが定期的に診療所を訪問し、コミュニケーションを深めるように務めた。
今後、当院だけでなく地域で患者を⽀えるシステム作りのために、1) 病院と診療所とを機能的に役割分担をすること(機能分化)や、インスリン導⼊のノウハウや糖尿病薬の使い⽅などの技術を伝えること(技術移転)、さらに住⺠の地域医療への参加が必要であり、これらは継続的課題とした。ITの活⽤による地域の施設間での情報共有と疾病管理を目的とした「とねっと」は2023年で事業終了となり、以後公的なシステムに役割を委譲する事となった。
また、コロナ禍で活動を縮小していた患者会「あゆみ会」の活動も、今後一新していく予定である。
その他、当科は甲状腺、副腎疾患、下垂体疾患においても⼊院‧外来において診療を⾏っている。甲状腺疾患は主に外来を中⼼として加療を⾏っている。結節性甲状腺腫に関しては、当院乳腺‧甲状腺外科の⽵元伸⾏医師に協⼒をいただき、診療科の垣根を越えた院内連携診療を⾏っており、甲状腺認定施設も取得した。
その他、電解質異常あるいは、本態性⾼⾎圧症と内分泌疾患に伴った⾼⾎圧症との鑑別を⽬的とした依頼も受けている。肥満治療注射を保険適応で処方できる施設の要件も満たしており、肥満症治療にも対応している。
当科では単に知識や技術的な⾯だけでなく、⼈間性においても優れた医療スタッフを育成することを重視している。今後は、地域や患者のためにチームの中⼼となって活躍できる糖尿病認定看護師を誕⽣させることが重要な課題としてあげられる。当糖尿病療養医療チームでは、令和8年度現在、12名の糖尿病療養指導⼠が勤務している。受験の際には、勉強会や症例報告の指導を⾏ったり、資格更新のための⽀援も⾏っている。また糖尿病専⾨医試験+糖尿病特定認定看護師の教育施設としても協力している。
学会や論⽂発表などの学術活動も奨励しており、院内の活動や研究成果を全国へ発信できる能⼒を⾝につけられるように指導を⾏っている。